大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和43年(ネ)427号 判決 1968年7月16日

控訴人(被告)

太田円次

被控訴人(原告)

小石川和一郎

代理人弁護士

馬場正夫

外一名

主文

原判決を取り消す。

本件を東京地方裁判所に差し戻す。

事実

控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並びに証拠の提出及び認否は、証拠として、控訴人において乙第一号証を提出し、被控訴代理人において「右乙号証の成立を認める」と述べたほか、原判決事実摘示のとおりであるから、その記載を引用する。

理由

記録によれば、原審は、昭和四三年一月二三日午前一一時の口頭弁論期日において、被告(控訴人)不出頭のまま、弁論を開き、原告(被控訴人)により、従前の口頭弁論の結果が陳述された後、弁論を終結し、判決言渡期日を同年二月一五日午后一時と指定し、同日判決の言渡をしたことが明らかであり、記録二九丁の郵便送達報告書によると、前記一月二三日午前一一時の口頭期日呼出状は、昭和四二年一二月一四日控訴人に適法に送達されたもののごとくに見える。

しかしながら、成立に争いのない乙第一号証によれば、控訴人に送達された呼出状には、口頭弁論期日が「昭和四三年、、、と定められた」とあるのみで、同年の何月何日何時に右期日が指定されたのか全く不明である。もつとも、前記郵便送達報告書中の「昭和四三年一月二三日午前一一時」の記載は、それに使用されたインキの色及び筆蹟から推せば、右記載が同書に受領者の押印が行なわれる以前に、あらかじめなされていた事実を窺うことができるが、さりとて、送達書類受領者が書類の内容を精査したうえで送達報告書に押印するとは限らない以上、右送達報告書に口頭弁論期日の記載があらかじめなされていたことにより期日呼出状の期日記載の不備が補われるものではない。また、前記呼出状によれば、同書面に裁判所の名称、所在地、係属部、係書記官の官氏名の記載がなされていた事実を認めることができるから、これにより控訴人(被告)は容易に出頭すべき弁論期日を知る手段を講じ得たであろうといえないではない。しかし、それだからといつて、右呼出状の不備が治癒されるものでないことはいうまでもない。

以上のとおりであるから、昭和四三年一月二三日午前一一時の期日は、控訴人に対する呼出がないままで、口頭弁論が行なわれたことに帰し、これに基づいてなされた原判決は違法であるといわなければならない。

してみれば、原審の判決の手続は、法律に違背し、かつ事件につきなお弁論をする必要があると認められるから、民訴法三八七条、三八九条により、原判決を取り消し、本件を原裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり判決する。(三渕乾太郎 園部秀信 森綱郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例